少し前、カットモデルとしてショーに参加した。
小太りの一般女性にはわりと荷が重かった。上司に退職を伝えるときくらい重かった。
わたしは、行きつけの美容師さんのことを応援しているので、その経緯でカットモデルを依頼されていた。
一方、他の美容師さんたちは、わたしのような常連客ではなく、ちゃんと見栄えがする人をモデルとして選んでいた。当たり前ですが。
なので、小太り短身のわたしは他のモデルさんたちと並ぶとポプテピピック状態だったし、用意してもらった衣装はことごとく入らなかった。もしもしポリスメン?
そのショーにはもちろんたくさんの美容師さんが参加していて、サポートの美容師さんもたくさんいた。
男性美容師さんのうち半分かそれ以上は長髪で、そういえば今までの人生で長髪の男性集団ってあんまり見たことがないなと思った。
相撲部屋くらいか。お相撲さんが髪を結ってない姿はあまり見たことがないのでこれもピンときていないが。
とにかく、サラリーマン社会に身を置いていると長髪の男性をあまり見かけないため、「なんだかいつもと違う場所だな」という気持ちだった。
担当美容師さんがわたしのことを頻繁に呼ぶので、知らない美容師さんたちもわたしを名前で呼んでくれた。
ちなみに、担当美容師さんとは結婚前からの知り合いなので、わたしは旧姓で呼ばれている。
もう旧姓で呼ばれる機会が少なくなってきたので、みんなが旧姓で呼んでくれて結構嬉しかった。
そんなとき、一人の美容師さんが「〇〇さん、お疲れ様です!」と声をかけてくれた。
びっくりした。
呼ばれた名前が今の名字だったからだ。
もちろんその場にいた人たちはわたしの今の名字を知らない。それどころか、担当美容師さんすらも知らないはずだ。少し寒気がした。
この人に名前言ってないよね……?
なんでこの人はわたしの名前を知っているの……???
「めっちゃ呼ばれてるから名前覚えちゃいましたよ〜!」
彼は明るく言った。その顔には1ミリも悪意がなかった。
あ、間違ってんな。
その美容師さんは、単純にわたしの名前を間違えて覚えているのである。
うーん、たしかに旧姓と現姓、印象が似ている。
たとえば、旧姓が古田だとしたら、現姓は新田というように漢字の一部が共通しているのだ。
だから「古田さ〜ん」と呼ばれている場面を見て、「おっけー!新田さんね!」と記憶しちゃったみたい。うっかりさんだね。
でも、そんなことある〜〜!?!?ミラクルじゃな〜い?
キャッチャーフライだと思ったらホームランだったみたいなこと!?!?
間違っているけど、誰より正解。