こんにちは。
お久しぶりです。
ずっとハワイ旅行日記の続きを書こうと思ってはいるのですが、全く手が進まず放置したまま年末を迎えております。
もう忘れちゃったよ〜!
気分を変えて本日は、直木賞候補作品 一穂ミチ著 『光のとこにいてね』のブックレビューを書いていきたいと思います!
光のとこにいてね あらすじ
古びた団地の片隅で、彼女と出会った。彼女と私は、なにもかもが違った。着るものも食べるものも住む世界も。でもなぜか、彼女が笑うと、私も笑顔になれた。彼女が泣くと、私も悲しくなった。
彼女に惹かれたその日から、残酷な現実も平気だと思えた。ずっと一緒にはいられないと分かっていながら、一瞬の幸せが、永遠となることを祈った。
どうして彼女しかダメなんだろう。どうして彼女とじゃないと、私は幸せじゃないんだろう……。運命に導かれ、運命に引き裂かれる
文藝春秋
ひとつの愛に惑う二人の、四半世紀の物語
一穂ミチ
大阪在住。2007年『雪よ林檎の香のごとく』でデビュー。劇場版アニメ化もされた『イエスかノーか半分か』など、BL作品を中心に執筆。2021年、一般文芸作品としては自身初となる単行本『スモールワールズ』で、吉川英治文学新人賞を受賞。同作が本屋大賞第3位、直木賞候補作に選ばれるなど話題を呼ぶ。
好書好日
光のとこにいてね 登場人物
これ以降はネタバレを含みますので、見たくない方はゆきりんのファンへの悪口動画を見てください。
■果遠
母子家庭で団地に住んでいる小学2年生。
母親は自然由来の品を果遠に使わせ、添加物を気にして給食を食べさせなかったりするため周囲から浮いている。
学校にも団地にも友達がいない。
■結珠
私立の小学校に通い、習い事をたくさんしている裕福な家庭の子。
毎週水曜日に母が知らない男性を訪ねるために、一緒に団地へ連れて行かれる。
母が男性と部屋にいる間、果遠と遊ぶようになる。
光のとこにいてね ポイント
■7歳、15歳、29歳
この物語は、幼く無垢な7歳、多感な15歳、そして年齢も立場も大人になった29歳という3章で紡がれます。
果遠と結珠、それぞれを取り巻く環境への考え方やお互いへの想いなどが年齢を追うごとに変化したり明確になっていきます。
■母と娘
果遠は母子家庭の団地住まいで、貧困家庭で育ちます。
その上、母親の思想から、塩と酢で身体を洗っていたり、給食を拒否したり、一般的な生活とは言い難い環境にいました。
ただ、果遠は幼いなりに、母親という存在を割り切って考えており、母親が団地内でどのように見られているかなどを俯瞰して見ています。
確かに母親から逃れられない呪縛はあるのですが、母親から受ける影響をそのまま飲み込んでいるわけではなく、果遠は無謀で大胆なこともやってのける人物として描かれています。
一方、結珠は医者の娘で、私立の小学校に通い、たくさんの習い事をしており、裕福な家庭で育ちます。
裕福だから幸せかと言えば、そうでもなく、母の機嫌をいつも伺っていました。
年齢の割に冷静ですが、母親が嫌がることは決してできず、自分と母親を切り離して考えるのが困難な人物です。
2組の母子の対比が、二人の性格にも当然影響しているように思います。
■名前の付けられない関係
2人は出会った7歳の頃から、他の人とは違うものをお互いに見出し、強烈に惹かれ合っていました。
単なる幼少期の思い出となるはずだったところ、15歳で再会し、また惹かれ合います。
29歳でお互いが既婚者となって再会し、距離を保っているつもりでもいつの間にかやはりお互いを手放したくないという感情が生まれます。
どうしても惹かれ合う仲でありながら、二人の関係はずっと明確ではないというところがポイントです。
光のとこにいてね 感想
■エモいタイトルがいい
『光のとこにいてね』というタイトルは、7歳の果遠が結珠に「陽が当たっているそこでちょっと待っていてね。」という意味で言った言葉なのですが、この物語を象徴する言葉でもあり素敵でした。
住んでいた団地や家庭環境もそうなのですが、薄暗い海の写真に惹かれたり、二人が会っている時に雨が降ったりと、陽が当たらない果遠とは対照的に、果遠自身はいつも結珠に対して「光のとこにいてね」と切なる願いを持っているところがとても印象的でした。
15歳の果遠は、自ら結珠と同じ学校に入って結珠と同じ世界に行こうとしましたが、彼女に気安く近づいたりせずにいるところも、彼女に「光のとこにいてほしい」証拠かなと思いました。
ただ、努力で結珠と同じ世界に行こうとするバイタリティは結珠にはない素質で、そこが逆に結珠にとっては光を感じるところでもあったし、彼女と会えなくなるたびに、「光のとこにいてね。」と思っていたのは結珠も同じだったと感じました。
「私があなたの光になる」わけでも「私の光はあなた」なわけでもなく、ただお互いの幸せを願う気持ちが「光のとこにいてね」なのかなと思います。
■本当に名前の付けられない関係なのかな?
果遠と結珠は29歳でお互い既婚で再会した後、キスを交わすこともあれば、二人きりで泊まりに出かけたりすることもありました。
結珠の年の離れた弟には、二人は昔女性同士で付き合っていて別れたのではないか?不倫ではないのか?と聞かれる場面もあって、実際その通りではないけれど、まぁそういった類の関係性ではあるよな〜と個人的には思いました。
思春期のキスまでだったら、名前の付けられない関係だと納得できるんだけどな〜。
同性同士だからその辺をぼやかしてるけれど、異性間だったら、既婚でキスしてる時点で不倫!ってなると思うんですよね。
しかも、子供の頃からお互い惹かれあっていたけど、今はお互い既婚!それでも好き!とかなるとそんな綺麗な話でもないような気がするんですよ。
お互いだけの話じゃなくなってしまうので。
大人になって母親や家族のしがらみから解放されて、自由に物事を選べるようになった2人が、結局自分たちの母親と同じ轍を踏もうとしているようにも思えて、母親という呪縛がいかに強烈かということを感じました。
■後半の疾走感
後半の畳み掛けるような展開に疾走感があって良かったです。
ただ、周囲の理解がありすぎてちょっと違和感はありました。
それは、二人を良く理解しているパートナーたちで、二人の幸せを願う人でもあったからというのは分かるのですが、そんな展開になるかな?と若干疑問でした。
果遠は今までそうしてきたように、大切なものをすんなり手放し、一人の世界に戻っていこうとするところに変わらない芯の強さを感じたのですが、
逆に結珠は、理性的で保守的な性格なのに、最終的にはそういうものを取っ払って必死に果遠を追いかける姿が、何よりも大切なものを得ようとしている本能的な姿として感じられて良かったです。
ちょっと映画のラストみたいでドラマティックでした!
以上感想でした。
一穂ミチさんの小説は初めて読んだのですが、すごく読みやすかったし、情景描写がものすごく秀逸だと思いました。
湿気や寒さ、暗さとかそういうものがダイレクトに伝わってきて、文字だけなのに情景や温度が浮かんでくるので想像力が掻き立てられました。
とてもスッキリ読めました!
年末年始は、芥川賞、直木賞候補をどんどん読んでいこうかなと思っています!
では、また。